日本三大秘境のひとつ、徳島県祖谷地区のジビエ処理施設
四国のほぼ中央に位置する徳島県祖谷地区。山々が連なり、その間をエメラルドグリーン色の祖谷川が流れる風光明媚なまちです。岐阜県の白川郷、宮崎県の椎葉村と並び日本三大秘境と称され、祖谷のかずら橋や落合集落などがある観光名所として有名ですが、ジビエの生産地としても注目されています。
山々を縫うように走る幹線道路沿いに小さな集落があります。川のせせらぎだけが心地よく響きわたり、祖谷の山深いところまで進んできたことを実感します。水音がする方へと下っていくと、川辺に『祖谷の地美栄』があります。大自然のなかでどんぐりをはじめとした豊富な木の実を食べて育ったシカとイノシシから、おいしく安全なジビエをつくっています。
10年以上の歴史を持つ施設を率いるのが松本さんです。神戸でパン職人として活躍していた松本さんは、『祖谷の地美栄』のジビエづくりを知り一念発起。祖谷地区に移住し、地域の解体師や猟師から処理加工のイロハを学び、在籍4年目にして施設長を務める若きリーダーです。「『雑味のないジビエ』は捕獲から解体までスピードに懸かっています」と話す松本さん。そのこだわりに迫ってみましょう。
素早さと丁寧さを心がける。すべてはおいしく安全なジビエのために
ジビエづくりのスタートを担う猟師陣は、『阿波地美栄処理衛生管理ガイドライン』の講習を修了した精鋭ぞろい。シカ・イノシシを止め刺しすると15~30分という短時間で搬送します。シカが搬入されると松本さんは柔和な雰囲気が一変。シカを念入りに洗浄しながら、松本さんは「おいしいジビエをつくるために妥協はしません。搬入個体の健康状態や止め刺しが不十分であれば猟師の皆さんにしっかり指摘します」と厳しい目で語ります。
シカの解体処理に取りかかる松本さん。迷いのないナイフさばきで素早く皮を剥いでいきます。スピード感あふれる剝皮作業の合間、松本さんはナイフや手袋にシカの毛がついていないか頻繁にチェックします。「おいしいだけでなく“安心して調理できるジビエ”をつくりたいんです。料理人渾身の一皿が台無しにならないよう、毛1本も見逃さない意識で仕事に臨んでいます」(松本さん)
『祖谷の地美栄』がつくる「雑味のないジビエ」には、東京のレストランやホテルも信頼を寄せます。飲食店からの期待も注文数も日々高まるなか、松本さんは後輩解体師との2人体制で応えています。マンパワーが限られる分、ウインチを駆使した効率的な剝皮法、皮の汚れが流れ落ちやすいメッシュ素材の剝皮台など、工夫を散りばめた解体処理環境でおいしく安全なジビエを実現しています。
柔軟な精肉加工技術で、「また使いたい」と思うジビエをつくる
剝皮・内臓摘出を行うと、冷蔵庫で1日寝かせてから精肉にします。枝肉から部位ごとに切り分けていく松本さん。小さく細いスジや血斑もくまなく取り除いていきます。「ロースやモモは特に人気で、冬の時期は在庫が少なくなることも。当施設ホームページのWeb発注システムから予約発注もできますので、ぜひご利用いただきたいです」。松本さんの丹念なジビエづくりに魅了される料理人は徐々に、着実に増えています。
ロース、ヒレ、シンタマ……。手際よく切り分けられ、整然と並ぶジビエを眺めながら松本さんは話します。「料理人の皆さんから要望や指摘に応えるなかで、ここまで技術を高めることができました。サドルや骨付きモモなどの特注品は、食のプロを満足させようと試行錯誤してつくり出した、努力の賜物です」
「肉質と価格には特に自信があります。『また使いたい』と思っていただけるよう、ジビエづくりに精進するとともに、新たな飲食店との出会いを大切にしていきたいです」と笑顔を見せる松本さん。山深い秘境から“ジビエ愛”を込めて……。若きジビエ職人は手塩にかけたジビエを、自信をもって全国の飲食店に送り出します。
