エゾシカを手間ひまかけて飼育するジビエ処理施設
雪化粧した山の前を悠然と横切るエゾシカの群れ。北海道の冬を象徴する自然の絶景に見えますが、ジビエ処理施設『ドリームヒル・トムラウシ』の管理施設内のひとこまです。北海道新得町トムラウシで全国的に稀な「養鹿」を行う同施設は、専属ハンターがヘッドショット・ネックショットで即倒させて即座に放血し、2時間以内に搬入されたエゾシカのほか、生体のまま捕獲して一時的に飼育したエゾシカからジビエをつくります。
養鹿からジビエの処理加工までの工程を統括するのが所長の髙倉さん。ホテルの料理人から一念発起して『ドリームヒル・トムラウシ』の設立に参画。新得町の大自然、そして自然の一部であるエゾシカと向き合いながらジビエづくりに励んできました。「一時養鹿は春から冬にかけてエゾシカを飼育するため、チャンスは年に一度きり。思うようにエゾシカが育たない年もありました。10年にわたりトライ&エラーを繰り返して、こうしてエゾシカが健やかに育つ養鹿技法を確立しました」(髙倉さん)
トムラウシ山や大雪山国立公園から南にかけて広がる新得町。大スケールの自然に生息するエゾシカを「大型の囲いわな」で捕獲します。約0.3ヘクタールの囲わなは、森に自生する草木をそのまま活かした装置で、中心部にエサを置いてエゾシカを惹きつけます。「エゾシカは第6感が働くようで、わなに不自然さがあると入りません。人工物でありながら、エゾシカが森の一部と錯覚するほど自然な造りに行きつきました」と髙倉さんは話します。
捕獲したエゾシカは管理施設で半年以上かけて飼育します。出荷を間近に控えたエゾシカに、施設長の青木さんは町内で採れたにんじんを与えます。「エゾシカはグルメなのでおいしくないエサは食べないんです」と青木さんは笑います。エゾシカはにんじんのほか、牧草やビートパルプ(糖分を抽出した後に残るてん菜の繊維質)を食べて、厳しい冬を越えるための脂肪をその身に蓄えます。「エゾシカは脂身がついてなんぼ。旨味が濃く、香りのよいジビエに仕上げるため、栄養価に富んだ自然由来のエサにこだわっています」(髙倉さん)
エゾシカの力強さが伝わる、フレッシュ感のあるジビエをつくる
養鹿期間を終えて理想の状態に仕上がったエゾシカは、北海道の「エゾシカ肉処理施設認証」を取得した衛生的な処理施設でジビエに処理加工します。一次処理室で内臓を摘出し、余分な脂身をトリミングする髙倉さん。エゾシカらしい大柄な体躯もさることながら、ぐるりと体を覆うしっかりとした脂身が目を引きます。「養鹿の個体はと殺処理するので、ネックがきれいに残るのが特徴。同じ施設内でと殺・放血から解体処理まで間を置かずに行えるので、フレッシュ感のあるジビエをつくるにはうってつけです」(髙倉さん)
一次処理後、枝肉は個体の大きさに応じて冷蔵庫で3~10日保管します。きれいに洗浄した枝肉をミートラッパーで丁寧に包むと、髙倉さんはクレーンを使って冷蔵庫に移します。「枝肉を縦半分に切り分けるとロースが露出してしまい、冷蔵保管するなかでロースの表面が空気にさらされてくすんでしまいます。当施設では一頭丸々の状態で保管するので、赤色が美しいロースを出荷できるんです」と髙倉さんは話します。
この日、精肉加工するのは3歳のオスジカ。「これも上物ですが、特にオスで2歳のエゾシカは肉質が詰まっていておいしいです。脂身もきれいですよ」。髙倉さんは声を弾ませながら大きな枝肉を手際よく解体していきます。胴体からあばら骨を外す際にはロースを傷つけないよう指をガイドにナイフで切り離し、やわらかな肉質のウチモモはとりわけ慎重に切り分けるなど、「おいしく、美しいジビエ」に仕上げるための元料理人・髙倉さんの技が光ります。
北海道の大自然とジビエ職人の愛情で育てたエゾシカを全国の飲食店へ
北海道の中央部にある新得町トムラウシから、手塩にかけたエゾシカのおいしさを損なうことなく全国の飲食店に届けるため、液体急速凍結機をはじめとした冷蔵・冷凍機器を活用しています。真空包装したシカ肉を液体急速凍結機に入れると3分程度で凍結状態に。凍結時の細胞へのダメージを最小限に抑えられるため、解凍してもドリップが少なく、色味や食感を保つことができます。
養鹿、解体処理、精肉加工……。日々ジビエづくりに打ち込む髙倉さんと青木さんの想いはひとつです。「エゾシカを楽しんでほしい」。料理人が思い描くレシピ構想に合わせて、ヒレやロースなどの定番部位からサドルや子鹿丸枝肉などの特注部位まで、様々な注文に応えています。「時期によってはチルド納品にも対応しています。『こんなエゾシカがほしい』というご要望がありましたら気軽にご相談ください」と髙倉さんは呼びかけます。
養鹿技法を確立し、精肉のほかサラミなどの加工食品の開発にも取り組む『ドリームヒル・トムラウシ』。新得町産エゾシカにたくさんの料理人が親しみをもてるよう、これからも精力的にジビエの処理加工・魅力発信に取り組んでいきます。「魚に旬があるように、エゾシカも時期はもちろん、性別や月齢ごとの魅力を楽しむ食材だと思っています。旨味の濃さ、脂の乗り具合や香り、肉質……。料理人の皆さんには、その時期ならではのエゾシカのおいしさをひと皿に活かしていただけたらうれしいです」(髙倉さん)
