大自然で育つシカ・イノシシそのもののおいしさを引き出す
解体して一晩冷蔵保管したシカ肉を、解体師が手際よく部位ごとに切り分けていく……。年中無休でジビエづくりを行う『わかさ29工房』の日常の光景です。3人の解体師を率いるリーダー・河戸さんは、「うちのジビエは余分な水分を飛ばす程度で、あえて熟成は行いません。シカ・イノシシそのもののおいしさを届けたいんです」とシカ肉を眺めながら話します。
この日精肉加工する一晩寝かせた骨付きモモは、ほどよく水分を含んだしっとりとした肉質。スピーディーな個体搬入と解体処理によってクセが抑えられたジビエは、東京や神戸の星付きレストランをはじめ、全国各地の飲食店が信頼を寄せています。「なかには10年来の付き合いになるシェフも。店内熟成やお店ごとの下ごしらえや調理技法など、飲食店それぞれの方法でジビエのおいしさを引き立てていただいています」(河戸さん)
ジビエのおいしさの源は、鳥取県東部に広がる大自然です。1,000m超の山々にはエサとなる木の実が実り、山麓にかけて清らかな川が流れ、シカ・イノシシは自然がもたらす恵みを蓄えて育ちます。さらに、起伏に富んだ山中を動き回るなかで筋肉が鍛えられるため、ジビエ料理にするとしっかりとした肉質を楽しめます。
国と県の衛生認証にもとづき、安全・安心なジビエの安定供給を実現
『わかさ29工房』が料理人から信頼を集める理由は、ジビエのおいしさだけではありません。総面積400㎢超の大自然で捕獲されたシカ・イノシシを年間2,000~3,000頭単位で処理加工するため、一年を通して安定供給が可能です。「多くの頭数を処理加工するなかで、搬入から解体、精肉加工まで、工程ごとに個体確認を行っています。血抜き具合や肉質などを綿密にチェックして、食肉に適した個体だけを加工・出荷しています」(河戸さん)
安全・安心なジビエへのこだわりは、ジビエづくりの入口にも強く表れています。搬入個体の状態を確認すると、バーナーを使い表面を焼いていきます。「これは『毛焼き』と呼ばれ、皮に付着する害虫を駆除するだけでなく、解体する時に毛が異物として混入することを防ぐ効果があります」と河戸さん。肉に熱が入らないぎりぎりの焼き加減が求められる、とても繊細な工程です。
『わかさ29工房』は、2017年に鳥取県HACCP、2019年に国産ジビエ認証を取得し、衛生的にジビエをつくるための環境を築き上げてきました。河戸さんは「ジビエを食肉として広めるうえで、ジビエ処理施設がするべきことは何か……。肉の安全性を担保するために、県や国が定める衛生認証を取得しました」と意図を語ります。おいしく、安全・安心なジビエの安定供給は、長年にわたり積み重ねてきた衛生知識とノウハウが支えています。
料理人との交流を通じて、よりよいジビエをかたちにしたい
全国各地にジビエ処理施設が誕生し、ジビエに関心をもつ料理人が増えるなか、河戸さんはジビエ選びのポイントを教えてくれました。「ジビエがつくられている産地に行ってみることをおすすめします。山を見て広葉樹が多ければ木の実が豊富にあり、シカ・イノシシが肥える環境だとわかります。あと、ジビエ処理施設ごとに魅力や個性があるので、各地を訪れて交流しながら知ってほしいですね」と言葉を送ります。
河戸さんは料理人とコミュニケーションを重ねながら、要望を満たすジビエを提供し、よりよいジビエをつくってきました。料理人が調理しやすいようスジなどを丁寧にトリミングし、真空包装時には食品用ラップで巻くこだわりようです。すべては料理人を思うからこそだと河戸さんは話します。「食品用ラップで巻くのも、緑色の吸水シートを敷くのも、肉をきれいに見せるために取り入れました。ジビエのおいしさとともに見映えでも料理人の調理意欲を後押ししたいです」
ジビエ職人と料理人の垣根を越えて『人と人』として向き合い、たくさんの絆を紡いできた河戸さん。料理人の期待に応え続けるとともに、もうひとつ大きな夢を抱いています。「『とっとりジビエ』を鳥取県を代表する食材にしたいです。これからも全国各地で開催されるフェアやイベントに参加して自慢のジビエを発信していきますので、お見かけした際にはぜひ気軽に話しかけてください」
