人口22人の山間集落にある、小さなジビエ処理施設
京都府宮津市の緑豊かな山にぽつんと存在する小さな集落。『上世屋獣肉店』がある上世屋には、人口22人の住民が自然と共生しながら暮らしています。上世屋のなかでもひと際目を引くのが棚田です。春には水を張った水面がきらめき、夏には苗が青々と育ち、稲穂が実る秋には黄金色に染まります。棚田はまさに自然の豊かさを映し出すものと言えます。
上世屋の自然の豊かさを鮮明に映し出すものはもうひとつあります。『上世屋獣肉店』が手掛けるジビエです。宮津市一帯のシカは、山を覆うブナ、コナラ、ミズナラなどがもたらす木の実などを食べて成長します。また、日本海側特有の「冬に雨や雪が多い気候」もシカの成長に深く関わっています。上世屋は一年を通して寒暖差が激しく、大量の雪が積もる豪雪地帯です。降り積もった雪が草や新芽を守るカバーになり、シカが冬場にエサとなる植物を食べ尽すのを防いでくれます。自然界のバランスが保たれた環境のなか、シカは山々の豊かな栄養を蓄えて体を大きくしていきます。
小山さんは『上世屋獣肉店』を営みながら、棚田でお米を育てる農家でもあります。猟場と棚田を行き来する日々を送るなかで、小山さんはシカ肉づくりとお米づくりが深いところでつながっていることを知りました。「同じ地域の田んぼであっても、土質や標高が異なれば、おいしいお米にするための方法は変わります。ジビエもお米と同じです。シカの生息地域や捕獲時の心身の状況をもとに、できる限りストレスを与えない止め刺しから肉質に応じた精肉加工まで、一頭一頭に合わせてアプローチします。そのシカが持つおいしさを少しでも損なわないように、力を尽くしたいと思っています」
「何も足せない、だからこそ損なわない」自然そのものを味わえるジビエ
『上世屋獣肉店』では小山さん自らシカの捕獲場所に出向き、止め刺し、解体、熟成、精肉加工まで一貫して行います。国産ジビエ認証を取得した施設内は、機器設備が整理された清潔感のある空間で、小山さんにとって「そのシカが持つおいしさを少しでも損なわない」ことに集中できる理想的な環境です。
『上世屋獣肉店』がシカを捕獲・処理し、料理人にお肉として届ける中で大事にしている思いがあります。「一口食べて、シカが駆けて眠る山々の情景が思い浮かぶジビエを目指しています。シカ肉のおいしさは、食べてくれた方の心に、丹後半島や上世屋という風土をまっすぐ伝えることができる。この地に生かされる者として、シカ肉を食べてもらうことで、山々の価値を高めたいです」。上世屋を象徴するジビエの作り手として、小山さんは気持ちを込めて枝肉をひとつひとつ精肉に仕上げていきます。
「ジビエは自然そのものです。人が旨味や香りなどを付け足すことはできません。だからこそ、シカが持つおいしさを損なわず料理人の皆さんに届けることが、私にできる唯一の仕事ではないでしょうか」と小山さんは話します。上世屋の自然と文化に魅せられ移住して10年。ありのままの自然環境に身を置くなかで、小山さんは“自然の代弁者”としてのスタンスを確立しました。
上世屋の自然の豊かさを体感して、ジビエ料理に活かしてほしい
風土を感じられるシカ肉。気になる味わいですが、小山さんは「ジビエの作り手として伝えたいことはシカ肉に込めました。この際、言葉はいりません。一度食べてみてほしいです」と自信をにじませます。ここで小山さんは胸に留めている格言を紹介してくれました。「ジビエを美味しく食べるには、山と猟師と料理人が揃わないといけない」。小山さんは近い未来に訪れるであろう、『上世屋獣肉店』のシカ肉に魅力を感じてくれた料理人との出会いを心待ちにしています。
山と料理人の橋渡し役として、小山さんはメッセージを送ります。「ぜひ上世屋に遊びに来てほしいです。自然の豊かさを五感で感じることで料理のインスピレーションを得たり、知る人ぞ知る地元食材との出合いもあるはずです」。京都府最北端にある小さな集落、雪国を彷彿とさせる豪雪地帯、そしてその風土をそのまま写し出すようなシカ肉に心血を注ぐジビエの作り手……。上世屋では新たなジビエ料理につながる、いままでに体感したことのない刺激と感動が料理人の皆さんを待っています。
