ジビエづくりの根幹をなす、円熟の職人技とコンビネーション
達人の風格ただよう職人3人衆の手さばきによって、シカがみるみるうちにジビエへと姿を変えていく……。鹿児島県阿久根市のジビエ処理施設『いかくら阿久根』で日常的に繰り広げられている光景です。同施設が誇る職人3人衆は、いずれも半世紀近く狩猟・解体を行ってきた“阿久根ジビエ界の生き字引”。個々の技術の高さは言うまでもなく、阿吽の呼吸でスピーディーに解体していきます。
『いかくら阿久根』が地域ブランド『阿久根ジビエ』として地域のシカ・イノシシを取り扱い始めて12年。おいしさを追求し、止め刺しから搬入まで1時間以内に完了することを目標に掲げています。「おいしいジビエをつくるには、『ストレスをかけずに止め刺し・血抜きした個体を、素早く搬入して解体する』という基本を徹底することが肝心です」(牧尾さん)
職人3人衆が「昔のジビエと比べてはるかにおいしい」と口を揃える『阿久根ジビエ』。そのジビエづくりを支えるのは猟師・解体師の技だけではありません。『阿久根ジビエ』は国産ジビエ認証を取得した衛生的な環境でつくられ、衛生水準は牛肉・豚肉などの食肉処理施設と肩を並べるほど。毎日入念に清掃するので、処理加工を終えた施設内はきれいな空気で満たされています。
『阿久根ジビエ』のおいしさを鮮明にする“独自工程”
竹林面積が全国1位の鹿児島県にあって、阿久根市は県内トップクラスの竹林面積を誇り、シカとイノシシはタケノコをはじめとした山の恵みを食べて成長します。「これがまた土に埋まっているタケノコの穂先を上手に見つけるんですよ」と感心する牧尾さん。食欲旺盛なシカ・イノシシにとって、四季折々の食物に恵まれた阿久根市はこの上ない環境です。
ジビエのおいしさを高めるため、独自に編み出したのが『血絞り』です。ブロック肉をタオルで包んで冷蔵庫で寝かせ、余分な血やドリップを取り除きます。「血やドリップには旨味やジビエ特有の香りも含まれるから、完全に取り除いてもだめ」と熟練職人3人衆のひとり、森さんが極意を話します。肉の状態を入念に確認してはタオルで巻きなおす手間ひまにより、山の滋養を色濃く映す『阿久根ジビエ』は完成します。
牧尾さんがこの日振る舞ってくれたのはシカ肉のロースト。「『阿久根ジビエ』はあまり手を加えない方が肉質の良さを感じていただけると思います」。丁寧に火入れされたシカ肉を噛みしめるたびに、旨味がじわりじわりと口中に広がります。幼い頃からジビエに親しんできた牧尾さんの次男・圭吾さんは「塩コショウで味付けしたスペアリブもおいしいです。ジビエの力強い一面を味わえますよ」と満面の笑みを浮かべます。
次世代への技術継承と柔軟な発想で『阿久根ジビエ』の新たな歴史をつくる
『いかくら阿久根』のジビエづくりの技は若い世代へと受け継がれています。圭吾さんをはじめとした20代の若手職人が修行に励み、シカの解体工程では円熟の技を会得しようと一挙手一投足に目を凝らします。若手職人の意欲的な姿勢に応えようと、熟練の職人たちは感覚的な技術をわかりやすく言語化しながら手ほどきします。時に厳しく、時にやさしく。『いかくら阿久根』は若手職人にとって絶好の学び舎でもあります。
「全国の料理人の皆さんにおいしさを知っていただけるようがんばりたい」と圭吾さんが次世代のリーダーとして自覚を示す一方、ベテラン勢は『阿久根ジビエ』の魅力創出に取り組んでいます。試作を重ねるなかで、脂身で赤身を包むように巻き込んだバラ肉をスライスした『ロールスライス』を開発しました。「解凍するだけで、しゃぶしゃぶや焼肉などを手軽に楽しめます。自信作ですのでぜひ一度試してみていただきたいです」(牧尾さん)
今後の目標について牧尾さんは、「鹿児島県は日本有数の食肉大国。牛、豚、鶏、いずれも全国的に高く評価されています。『阿久根ジビエ』もその一角に入れるよう、全員で力を合わせてさらにおいしく安全なジビエをつくっていきたいです」と高らかに話します。ジビエづくりは“チームプレー”。『いかくら阿久根』は職人たちが世代を超えて互いに切磋琢磨し、想いをひとつに団結して、大いなる目標を叶えることでしょう。
