自然環境を思いやる「有機農業全国ナンバー1のまち」のジビエ処理施設
西日本最大級のブナの原生林をはじめとする山林が広がる熊本県山都町。国指定天然記念物のニホンカモシカが生息する自然豊かなまちは、標高300~900mの準高冷地に位置し、夏は涼しい一方、冬は氷点下まで冷え込みます。この厳しい寒さがシカ・イノシシの脂乗りを促し、良質なジビエづくりにつながります。
山都町は有機JAS認証事業者数が全国1位の「有機農業のまち」。化学肥料・化学合成農薬に頼らない農法により、米をはじめとした農作物はもちろん、農地をぐるりと囲む自然環境も“ありのまま”のいきいきとした姿を見せています。シカ・イノシシは生命力あふれる自然のなかで成長します。
『ジビエ工房やまと』は、まちの主産業である農業を守るべくシカ・イノシシを捕獲し、新たな地域資源として活用するために開設されました。岩田さんは「肉そのもののおいしさが感じられるジビエづくりのメソッドは、自分たちで試行錯誤しながら築き上げました」と話します。“おいしいジビエ”と自信をもって紹介するジビエは、どのような環境・工程でつくられるのでしょうか。
猟師とつくり上げた“安心できるおいしいジビエ”を飲食店へ
岩田さんが念頭に置くのが、安全・安心なジビエをつくれる環境です。国産ジビエ認証にもとづき、シカ・イノシシの搬入から解体、加工、梱包まで、一貫して衛生的に行える処理加工工程を構築しました。「衛生水準は東京や福岡の世界的レストラン・ホテルからも信頼いただいています。ジビエは牛や豚と並ぶ“食肉”であり、料理人や消費者が安心できる施設環境が大事なんです」(岩田さん)
著名な飲食店・ホテルを魅了するのは衛生的な環境、そして口にすると素材本来のおいしさが染みわたるジビエです。捕獲個体は止め刺し後、おおむね1時間以内に搬入されます。「特有のクセが少ないジビエをつくるため、一刻も早く枝肉に解体して冷却しています。約70名の猟師陣は搬入スピードの重要性を理解して実行する、おいしいジビエづくりの“陰の立役者”ですね」と岩田さんは誇らしげに話します。
10年かけて磨き上げたナイフさばきでシカの剝皮・内臓摘出を進める岩田さん。「このやり方が完成形だと思っていません。瞬間的なひらめきでナイフの挿し方などを工夫しています。向上心なくしておいしいジビエはつくれませんから」という言葉どおり、岩田さんが情熱を注いで素早く解体した枝肉は、冷蔵庫で1~2日寝かせたのち精肉へと加工されます。
スピードを追求する猟師とともにつくり上げた自慢のジビエは、仕上げとして瞬間冷凍機で凍結します。-40℃の冷風で急速に凍結させることは、ジビエのおいしさ・品質を保つうえで欠かせない工程です。「お店では冷蔵庫で時間をかけて解凍してほしいです。ドリップが少なく、おろしたてに限りなく近いジビエとして調理いただけます」(岩田さん)
ジビエに誠実に向き合う料理人のため、気持ちを込めてジビエをつくり続けたい
『ジビエ工房やまと』が歩んできた歴史は、飲食店との“縁つむぎ”の歴史でもあります。コロナ禍には苦心する飲食店にジビエを良心価格で提供し、そのなかにはいまも続く縁もあります。岩田さんは縁の尊さを実感したからこそ、ジビエや料理について誠実に意見交換できる料理人との出会いを待ち望んでいます。「ぜひ一度見学に来ていただきたいですね。でも山都町は山深い所にあるので……(笑)。はじめは電話でお問い合わせいただけたらうれしいです」
もうすぐ開設10周年の節目を迎える『ジビエ工房やまと』。飲食店からたくさんの期待を集めるなか、岩田さんは「ジビエを待つ料理人の皆さんのため、誠心誠意シカ・イノシシと対峙するだけですね」と一言。これからもシカ・イノシシに真摯に向き合いながら、おいしさと安全・安心にこだわり抜いたジビエを全国の飲食店に届けていきます。
